大型スマホゲームのセガ「サクラ革命」が、リリースからわずか半年程度でサービス終了となる。スマホゲームには、一般に数億円から10億円を超える開発費の作品までさまざまあるが、本作はそんなスマホゲームの中でも、多額の開発費をかけた作品であるといわれている。
確かに、同作のセールスランキングは45位〜500位台で推移し、4月に入ってからは1000位圏外となるなど、冴えない売り上げではあった。しかし、“大器晩成”という言葉にもあるように、始めこそ伸び悩むにしても、後に控えるコラボ企画やキャンペーン、はたまたSNS上でのバズりなどによって一躍ランキング上位に食い込む事例もなくはない。
それでも、わずか4カ月目でサービス終了がアナウンスされたということは、実際の意思決定はリリースから2カ月ないし3カ月目の時点で検討されていた可能性が高い。なぜ多額の開発費をかけたスマホゲームが、ここまで早いスピードで撤退に追い込まれたのだろうか。
想像以上に苦境だった?
サクラ革命の苦境を評価するために、今回はARPUという指標を用いてみよう。ARPUとは1ユーザーあたりの平均売上高を示した指標で、スマホゲームごとの課金熱量を図ることができる。ARPUが高いほど、ユーザーはガチャなどによくお金を払っている事になる。そのため、ARPUで比較すれば、単純なユーザー数の多さや売上高にとらわれず、コンテンツの質を測ることができる。
まず、今最も勢いのある「ウマ娘 プリティーダービー」のARPUを確認しよう。まず、ユーザー数について、ゲームエイジ総研が4月20日に発表した調査レポートによれば「ウマ娘」の直近における週間アクティブユーザーはおよそ206万人となっている。そして、同作の21年4月度における売上高は140億円程度の着地とみられている。
これらの情報から概算される月間の推定ARPUは、約680円だ。ウマ娘のアクティブユーザーは月当たり平均で680円を課金していることになる。
一方でサクラ革命は、最もARPUが高まる配信初月のデータを見ても低調だった。アプリのセールスランキングを統計化するGame-iの推定によれば、同作の初月ARPUは推定339円となっており、サービス開始から相当期間が経過したウマ娘の半分程度で推移している。同サイトにおけるウマ娘の初月ARPUが推定2964円であることから、リリースの時点でサクラ革命はウマ娘の10倍ほども課金熱量の点で差をつけられていたことになり、想定以上に苦しい展開であったことがうかがえる。
仮にサクラ革命の平均月間アクティブユーザーを10万人とすると、月の売り上げは平均3390万円程度になるだろう。この数字は、同作のセールスランキングの推移と、その順位における他ゲームの売上高水準と概ね一致しているためある程度の妥当性はあると考えられる。
ここから一般的に月額でかかる運営費やサーバ費、プロモーションや広告費を控除すると、月の利益はわずか数百万円から1000万円台程度であったのではないかと考えられる。
一部で噂されるサクラ革命の開発費30億円という数字が事実であるとするならば、上記のような構造では開発費の回収だけでも30年近くかかる計算となる。そのような試算も相まって、同作は撤退となり次のプロジェクト開発にリソースを集中させることとしたのではないだろうか。
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実は評価できるサクラ革命の早期撤退
そんなサクラ革命だが、セールスランキングの推移などを勘案すれば、ゲームとしての評価はさておき、早期撤退の姿勢自体は評価できるといってよい。
なぜなら、多額の開発費をかけたゲームや新規事業では、経営上の意思決定のレベルで撤退時期の遅れが発生しやすくなる心理的要因も強く、これがたびたび企業本体に深刻なダメージをもたらすこともあるからだ。
サクラ革命に対して今までにかけた運用費や開発費は「サンクコスト」として、運営側の意思決定にバイアスをかける。投資で負けが込んできたときに、ポジションを損切りするのではなく、むしろ追加で大きく張って一発逆転を狙うイメージだ。
サクラ革命でも、事前登録達成の報酬として著名なVtuberとのコラボレーションや新たなキャンペーンが企画されていたため、明確な撤退基準がなければ「この企画まではいったん継続してみて、その反応を見てから撤退を決めたい」という意思決定になっていたはずだ。しかし、本作ではこれらのキャンペーンの実現を待たずに撤退という形となった。
しかし、このことは事前に明確な撤退基準と、その基準に従った意思決定プロセスが策定されていたことも同時に表している。企業全体に対する致命的なダメージを回避したという点で評価に値する。
なお、投資先行によって赤字が拡大した場合でも、競合よりも伸び率が向上していたり、アプリストアのレビューが高く品質面では問題がなかったりという点で、戦略的にサービスを継続して経過観察する例もある。
しかし、本作が4カ月目でサービスの終了に踏み切ったことは、そのような定性面での事情を鑑みたうえでもなお撤退が妥当であると判断された結果なのかもしれない。
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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