そのカエデの巨木の幹は、遠目には茶色い葉か、ひどいニキビにでも覆われているように見える。ところが近づいてみると、そのデコボコは生物の群れであることがわかった。その生物すべてが、上のほうにある枝の安全な場所に向かって懸命に登っているのだ。 米国で17年ぶりに大量発生する「周期ゼミ」は、昆虫食を広める好機になるか
この群れは地中の隠れ家から出てきたばかりのセミである。この17年、地下30cmのところに閉じこもり、木の根から樹液を吸いながらひっそり成長してきた。 この日は昆虫学者が「出現」と呼ぶセミにとって記念すべき日である。寒かった春が終わり、ここメリーランド州郊外のシルヴァースプリングでは地中の温度が17.7℃に達した。いざ旅立ちの時だ。 太陽が昇り、幼虫は穴から這い出してきて、木や茂み、パティオの家具など、手近な背の高い物体を探してよじ登る。そして、まるで昆虫界の小さな超人ハルクのように、体が強く硬くなるまで待つ。それから数時間もすれば、セミは茶色い殻を脱ぎ捨て、幼虫から成虫へと姿を変える。 成虫になったセミの体は黒ずみ、目は血のように真っ赤になり、銅色の力強い羽根が生える。そして一刻も早く交尾したいと願うようになる──。 こうしたセミたちの“通過儀礼”が、2021年5月中旬から米国の東部15州で進行中だ。5月後半には、この「ブルードX」と呼ばれる群れに属する数十億匹というセミが地上に姿を現すことになる。最大規模の群れが出現
ブルードXは3つの独立した種(そのうちふたつはマギキカダ属)からなるセミの集団で、ほぼ同じタイミングで地面から這い出してくる。米東部には17年ゼミのブルード(年級群)が十数個、13年ゼミのブルードが3個確認されており、それぞれ異なる年に出現する。 だが、今回のブルードX(昆虫学者はローマ数字を使って群れを区別する)は、そのなかでも最大規模のものだ。ワシントンD.C.とニュージャージー州の間のような人口の多い地域に近接して生息しており、その生息地は西はオハイオ州とインディアナ州にまで広がっている。 ジョージ・ワシントン大学の博士研究員であるゾーイ・ゲットマン=ピカリングは6週間というセミの出現期間を利用し、できるだけ多くの情報を手に入れようとしている数少ないセミ研究者のひとりだ。例えば、このセミの奇妙な生態や珍しい腸内細菌、そしてこれらの大量の個体が東部の森林や郊外の生態系にどのように広がるかといったことについて知りたいと考えている。 彼女は地元の自然保護区を歩き回りながら、羽化した何千匹というセミを観察している。クリップボードと双眼鏡を手にしており、服装は動きやすいジーンズとカーキ色のハイキングシャツだ。
数十億匹が大量発生! 米国で17年ぶりに現れた「周期ゼミ」を研究者と共に追って見えてきたこと(WIRED.jp) - Yahoo!ニュース
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