「魅力的な商品が安く手に入る会員制のスーパーマーケット」——。コストコといえば、皆さんはこのような印象を抱くのではないでしょうか。
米国発のコストコは会員制の倉庫型店舗を特徴としていて、年会費を支払うことで入店、購入ができるというビジネスモデルを採っています。2013年に日本国内で初の店舗がオープンした際には、事前入会者が5万人を超えて話題になりました。
コストコの営業利益のほとんどは会員料金
前回のQBハウス記事に引き続き、コストコの意外なもうけ方・それを可能にするビジネスモデルや経営戦略についてひも解いていきたいと思います。まず、コストコは何で稼いでいるのでしょうか。営業利益の内訳を見てみましょう。
実は、コストコの稼ぎ柱は会員料金で営業利益7割を占めています。
余談ですが、その企業の稼ぎ柱が何なのかを突き止める際は「売上高」ではなく「営業利益」を見る必要があります。
例えば今回のコストコであれば、最も大きな割合を占める売上高は「物販」に当たりますが、原価を差し引くと営業利益はわずかとなります。
一方「会員料」は売上高としては少なく微額になりますが、原価はゼロ(厳密にいうと会員証発行のためのカード代金がかかりますが、ほぼかからないはずです)なので、営業利益の比重としては大きくなります。
類似事例ではイオンが挙げられるでしょう。
イオンも売上高の比重が最も高いのはGMS(スーパー事業)ですが、営業利益ベースだと総合金融となっています。つまりスーパー事業が集客材料となり、そこで利用するイオンカードで利益を生んでいる構図です。
話をコストコに戻しましょう。会員料を稼ぎ柱としているコストコですが、売上高に占める粗利率は11%前後と他業界比較でも低水準なことから、原価スレスレで販売していることが分かります。
つまり、コストコは良い商品を安く売ることを「会員」という限定した顧客に価値提供することでもうけを出しています。
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コンビニ並みの商品数しかないコストコ
そんなコストコは、会員料金の分、各商品を安く販売しなければいけないわけですが、なぜ各商品を安く販売できるのでしょうか。その秘密は「販売点数を圧倒的に絞ってボリュームディスカウントを効かせている」ことにあります。
コストコのSKU(※1)を比較すると、他スーパーマーケット企業に比較すると商品点数が3分の1にも満たなくなっています。またコンビニと比較しても、コストコ商品点数は同じくらい。取り扱いジャンルや販売数に比べて、非常に少ない商品しか取り扱っていないのです。
※1 SKUとは在庫管理分野で広く用いられる単位です。例えばアパレルなら同じデザインTシャツで色が2パターン、サイズがS/M/Lある場合は6SKUと称します。
このように各カテゴリーごとに売れ筋商品にのみ発注を絞ることで、メーカーに対するバイイングパワーを獲得し、圧倒的低価格を実現します。
ちなみに国内だとワークマンも同じ戦法を使っています。ワークマンも衣料品を万単位で大量発注し、ボリュームディスカウントを効かせています。
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販売数を伸ばす「試食」
コストコは売れ筋商品特化により、ボリュームディスカウントを効かせているので、一商品あたりの販売数を伸ばさなければいけません。どうやって一商品あたりの販売数を伸ばすのかというと、そうです、コストコといえばでおな染みの「試食」です。
試食なんて、そこまでの購入インセンティブとはならないだろう……。そう思った貴方、試食は侮ってはいけません。試食は味を試すだけでなく(1)人の流れを遮る(2)返報性の原理が働くためです。
(1)について。コストコでは広い通路で大きなカートを押しながら、店内を練り歩きます。カートが大きいゆえ、顧客心理としてお目当てのもの以外は素通りしたいものです。その足止めをすべく、試食が牙城となり顧客の店内滞在時間を伸ばしています。
(2)について。返報性の原理とは「他人から何らかの施しを受けた場合に、お返しをしなければいけないという感情が湧く(Wikipediaより)」ことを指します。試食の効果は、まさにこれに尽きます。皆様もおそらくよく感じるでしょうが、試食をしたら薄からず「無料で食べさせてくれたから買ってあげたいな」と思っているはずです。さらに心理学者によると、返報性の原理による試食効果は購入率を2倍にするともいわれています。
こうしてコストコは、商品数を絞りながらも、その商品当たりの販売数を伸ばすことで大量発注した商品をさばくことができるわけです。
しかし、試食をするにしても人手が必要です。特にリテール業界は人材の流動性が高く、かのコストコでも一定数の人員を確保することはそう簡単なことではありません。では、どうやって試食含め販売の人員を確保しているのでしょうか。
試食含め必要箇所に人的リソースを充てる手段として、「倉庫型にする」ことが挙げられます。倉庫型にすることで、バックヤードから店頭に移動する人員を省くことができます(それゆえに広い天井に商品を敷き詰め、フォークリフトで棚卸ししています)。
コストコは店舗自体をバックヤード兼店頭にあたる倉庫型にすることで、販売促進に最大限人員を割り当てることが可能となっており、ヒトという資源の分配がビジネスモデルにひも付いているわけです。
筆者プロフィール:奥村美里
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Twitter @OkumuraMisato
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