現在公開中の映画『BLUE GIANT』(ブルージャイアント)。世界一のジャズプレイヤーを目指す主人公・宮本大(だい)の活躍を描いた熱く激しいジャズ成長物語だ。原作は『岳 みんなの山』で知られる石塚真一先生の同名人気漫画で、今も小学館「ビッグコミック」にて連載中である。
私(あひるねこ)は原作漫画の大ファンで、当然アニメの出来も気になっていたのだが、なかなか見に行けずにいた。そんな中、ちょっと不穏な噂をネットでいくつも目撃する。なんでも本作は、CGが相当 “アレ” なんだとか……。
・CGが話題に
気になる人はTwitterなどで「ブルージャイアント」と検索してみてほしい(ネタバレの可能性あり)。サジェストに「CG」と表示されるくらいには本件は一部で物議を醸している。一体何が起こっているのか? 実際に劇場まで足を運んでみた。
※映画の内容には触れていませんので安心してお読みください。
まず大前提として、本作はジャズの映画であり、全編の約4分の1をライブシーンが占めている。通常シーンはいわゆる2D作画が主体だが、楽器を演奏する場面ではモーションキャプチャーを使用した3Dアニメが中心となり、ライブシーンはその二つが目まぐるしく入れ替わりながら進行していく。
個人的に2D作画に関しては、何の文句もない。原作のキャラクターたちが生き生きと躍動している。さすがの劇場アニメクオリティーだ。が……演奏シーンのCGを見た瞬間に思った。あ、これかと──。こういうことかと。なるほどこいつは……たしかに “アレ” だな。
・噂通りだった
パンフレットの関係者インタビューを読めば、本作の演奏シーンがいかに複雑で難しく、かつ作業量も膨大であったかが分かる。分かるのだが……いや、サックスの大はまだいい。ピアノの雪祈(ゆきのり)もかろうじて大丈夫。しかし、ドラムの玉田がヤバイ。
一体なんて形容したらいいのか……。それまで漫画からそのまま出てきたかのように笑い、悩みながらも、全力で前に進もうとしていた玉田が、演奏が始まった途端、急に初代プレステソフトの謎ムービーみたいな動きでビートを刻み出すのだ。おい、どうしたっちゃ玉田! テンパりすぎて平成に逆戻りでもしたか!?
たしかにキャラの動きと演奏の音は1ミリの隙もなく合っている。即興を中心とするジャズにおいて、この作業がいかに困難であるかは素人の私でも想像に難くない。だがしかし、同じCGでも『THE FIRST SLAM DUNK』の超絶的な映像を目の当たりにした後では、ちょっとシャレにならないくらいチープに見えてしまうのである。
これがもしテレビアニメとして放送されていたら、前後の文脈を無視してそのシーンだけが切り取られ、まとめサイトやSNSでネット民のおもちゃにされていたことだろう。というか、もはやそうなる未来しか見えない。それくらい本作のCGは、いろいろな意味でショッキングであった。
が!!
だからといって、この映画が駄作かと聞かれたら答えは断固NOだ。むしろ、死ぬほどよかった。泣いた。震えた。呼吸を忘れた。3人の演奏に、音楽に、ジャズに、心から感動した。あえて点数と付けるとしたら、100点満点中10000点だ。今すぐに見に行け。そして泣け。
・号泣必至
本作は漫画の4巻以降。大が東京に来て雪祈・玉田と組んだバンド「JASS」の活動がメインに描かれるが、原作を読んでいなくても特に問題ないと思われる。とりあえずこれだけ覚えておけば大丈夫だ。大のサックスがパない。でも主人公は雪祈。玉田は頑張れ。以上。
この「大のサックスがパない」という点は、漫画『BLUE GIANT』において非常に重要で、読者は聞く者を圧倒する大のサックスを頭の中で想像している。ちなみに私の脳内ではコルトレーンやカマシ・ワシントンをさらにヤバくしたような音で再生されているが、それを実際の音楽にするのは相当な勇気がいるはずだ。
しかしこの映画は、そこから逃げるどころか、むしろ完璧に『BLUE GIANT』を音像化してくれた。その先頭に立ったのが、ジャズピアニストの上原ひろみさんである。上原さんは本作の劇伴だけでなく、雪祈のピアノ演奏も担当しているのだが……
とにかくサブスクでも何でもいいから、映画のサントラに収録されているJASSの曲『N.E.W.』を聞いてみてほしい。特に3分05秒から始まるピアノソロは、入りからマジで雪祈である。いや、他の人はどう思うか分からないが、私の中の雪祈は軽く笑みを浮かべながらこんなソロを弾いていたのだ。
サックスの馬場智章さんは、本来ならもっと緩急をつけたいであろうソロパートでも、大らしく強く強く、前へ前へ、激しく貪欲に吹くことで、紙の中からこの世界へと大を降臨させることに成功しており……
ドラムの石若駿さんは、その華々しいキャリアを考えると玉田とは真逆の存在であるにもかかわらず、初心者のぎこちないドラミングを完全再現。そこから徐々に上達していく姿を見事に演じ、クライマックスのソロでの爆発は我々観客の涙腺までをも爆発させた。
・音で演じる
そう、彼女らは楽器を演奏するだけでなく、音でそれぞれのキャラクターの人間的成長と音楽的進化を演じ切ったのだ。それらが結実するのが、今しがた触れたクライマックスのライブシーンである。
そこで繰り広げられる演奏は、次第に映画館内と劇中のジャズクラブの境界を曖昧にしていき、その場にいる全員の魂をぐいと鷲づかみにしながら天高く爆走していく。私は本作を「ドルビーアトモス」で鑑賞したが、それでもまだ足りない。もっと、もっと、スゲェ音で聞かせてくれと体が求めるのを感じた。
以上、めちゃめちゃ長くなりそうなのでファスト映画くらい無粋に短縮したが……まあ10000点だろうなぁ、低く見積もっても。CG? いや、噂に違わずヤバイよ? それでも10000点なんだと言いたくなる熱量が、この映画にはあったというだけの話だ。
なので、個人的にはCG目的で映画館に行くのも全然アリだと思っている。ジャズにも『BLUE GIANT』にもさして関心がなかった人が、それきっかけでこの作品を見てくれるなら万々歳ではないか。でも、一度見てもらえればきっと伝わる。大が言うように「きっと伝わる」と私は信じている。
参考リンク:映画「BLUE GIANT」
執筆:あひるねこ
Photo:©2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会、©2013 石塚真一/小学館、RocketNews24.
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