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2023年4月3日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」。
「日本の植物学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。激動の時代の中、植物を愛して夢に突き進む主人公・槙野万太郎を神木隆之介、その妻・寿恵子を浜辺美波が演じる。
ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第69回を紐解いていく。
佑一郎がやって来た。
第68回のおわり、ライオンキングのような謎の劇伴に乗って、佑一郎(中村蒼)が万太郎(神木隆之介)を訊ねて来ます。長屋の子どもたちと遊んでいると、万太郎が帰ってきて再会を喜びます。
アメリカへ行くという佑一郎。
アメリカの大きな川・ミシシッピ川で治水工事に携わるのです。
仁淀川からミシシッピ川へ行く佑一郎。
これは大河ドラマ!
人間の大いなる道筋を「らんまん」では「金色の道」と呼んでいます。
着々と信じる道を進む佑一郎に対して、万太郎はいま、ちょっと停滞中。でも親友に刺激を受けて万太郎もがんばるのでしょう。
佑一郎はたくさん食べ物をもってやって来て、寿恵子(浜辺美波)と三人で食事。「あったかいご飯っていいですね」という寿恵子のセリフに、貧しい暮らしを余儀なくされていることがさりげなくわかります。
佑一郎が帰ったあと、「留学かぁ」と顔をしかめる寿恵子。万太郎が刺激を受けて留学したがるんじゃないかと想定して、お財布と相談して、無理と判断したのでしょう。さっそく働こうと考えます。
新婚早々、すっかりよくできた夫の夢を支える妻になっている寿恵子。万太郎にとってはありがたい存在ですが、寿恵子が都合のいい人になってしまっているような気がして心配です。妾の家とはいえ、武家の妾、それなりに裕福に育った寿恵子なのに、いきなりこんな貧乏暮らしに対応できるものでしょうか。もう何年も経って慣れた感じの雰囲気がすでに漂っています。
佑一郎を送りがてら、いまの状況をいろいろ話す万太郎。「虫けら」だと言われた話も。佑一郎は、土木作業をする人たちが虫けらのように扱われていることを例にあげ、学校を出た者とそうでない者の格差を疑問視し、「この人らに恥っん仕事をせんとあかんと」「教授が言うところの『虫けら』らあがこの国を変える底力をもっちゅうがじゃ」と言います。この人権派な考え、「らんまん」の通奏低音です。植物も虫も、人間に軽んじられがちですが、そうではなく、尊い存在なのです。
佑一郎は、大学がだめなら、博物館に頼ればいいと提案します。
「訪ねて行く先があるゆうことも自分の財産(たから)じゃきい」
佑一郎、久しぶりに出てきて名台詞連発です。
博物館に続く道にカタバミの花が咲いています。英語では「ハレルヤ」という名もあるそうで、祝福です。万太郎と佑一郎の前途が洋々でありますように。
ここで感心したのは、長く続く道の表現です。朝ドラはセットだと距離が出なくてこせこせした感じになりがちなのですが、万太郎と佑一郎が語らう場に、風鈴を置いたことで、風が吹き抜けていく長い道を想像させるのです。風とともに進め!という感じ。演出は深川貴志さん。美術スタッフの仕事もすばらしい。
「らんまん」は子供の笑い声や、万太郎や寿恵子の笑い声が絶えません。それが良さでもあります。
(文:木俣冬)
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「らんまん」仁淀川からミシシッピ川へ――これは大河ドラマ<第69回> - CINEMAS+
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